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産総研、微細シリコンデバイスのための3次元応力解析シミュレータを開発
産業技術総合研究所(産総研)は9月11日、微細シリコンデバイスのための3次元応力解析シミュレータを開発したと発表した。
同成果は、ナノエレクトロニクス研究部門 ナノスケール計測・プロセス技術研究グループ 多田哲也研究グループ長、先端力学シミュレーション研究所らによるもの。詳細は、9月13日に開催される「第73回 応用物理学会学術講演会」および、9月27日に開催される「2012 International Conference on Solid State Devices and Materials」で発表される。
先端半導体デバイスでは、電子や正孔などのキャリアが流れるチャネル領域に応力を積極的に加えて、キャリアをより流れやすくし、高速化・高性能化が行われている。しかし、応力にバラつきがあるとトランジスタの性能にバラつきが生じるため動作電圧を十分に下げることができず、消費電力を抑えられない。そこで、応力がデバイス性能に与える影響を評価すると同時に、デバイス構造と応力の関係を明らかにし、それらをデバイス構造の設計や製造プロセスに反映するために、デバイス内部の応力分布を高い空間分解能で評価できる手法が求められている。
産総研は、半導体MIRAIプロジェクトにおいて、顕微ラマン分光法を用いたシリコンデバイス中の局所応力分布計測技術の研究開発を行い、光の波長よりも短い100nm以下の空間分解能で局所応力分布を評価できる技術などを開発してきた。こうした研究により、微細デバイスでは、光の強度分布がナノスケールで強く変調され、ラマンスペクトルが大きな影響を受けることが見いだされている。今回の研究では、電磁場解析と応力解析を結合したシミュレーションにより、光が変調される効果を取り入れたラマン分光法による解析をTCADと連携して、ナノスケールで定量的な応力分布解析ができる手法が開発された。
顕微ラマン分光法は、試料に入射した励起光が散乱されるときに、格子振動などのエネルギーレベルを反映して、散乱光の波長がシフトする現象を利用して非破壊で測定できるため、応力分布の評価手法として有望視されている。試料に加わっている応力の大きさや向きによってラマン散乱光の波長シフト(ラマンシフト、通常、波数で表記する)の大きさも変わるため、ラマンシフトの変化量から加わっている応力の大きさをある程度知ることができる。
しかし、光学顕微鏡を用いるため、空間分解能が光の波長程度(数百nm~1μm程度)にとどまる。また、応力は6つの独立した成分をもつ物理量なので、ラマンスペクトル測定だけでは、応力の方向や種類までを含めて定量的に評価することは難しい。この問題を解決するために、応力シミュレーションの結果と顕微ラマン分光法の測定結果を比較して、応力分布を評価することが行われてきたが、微細デバイスの測定では、デバイス構造が光の伝播をナノスケールで複雑に変調し、測定されるラマンスペクトルにも大きな影響を与えるため、正しい応力解析ができないという問題点があった。
今回、開発されたシミュレーションシステムは、ラマン散乱測定の際の励起光と散乱光の伝播を、時間領域差分法(FDTD)による電磁場解析で計算し、有限要素法(FEM)による応力解析とともに用いている。これにより、デバイス構造が光の強度分布をナノスケールで変調する効果を取り入れてラマンスペクトルを精密に計算し、デバイス中の応力分布を定量的に求めることができるようになったという。
図1 今回開発したシミュレーション技術の概念図
図2は今回開発した3次元応力解析シミュレータのフロー図。シミュレータは、(1)構造・応力読込部(FEM法で応力分布を計算)、(2)3次元FDTD解析部(励起光の強度分布を計算)、(3)ラマンシフト解析部(試料の各点からのラマン散乱光の波長を、応力分布から計算)、(4)3次元FDTD解析部(各点からラマン散乱光を散乱させる)、(5)ラマンスペクトル解析部(実測する波長領域でのラマン散乱スペクトルを計算)から構成されている。解析結果は、3次元ビューワにより可視化される。
図2 今回開発した3次元応力解析シミュレータのフロー図
図3(a)は、FinFETの応力分布と今回開発したシミュレータによって計算した励起光の強度分布。SiO2層の上に形成されたSiのチャネル部は、両端のSiGe合金によって応力が加えられている。この構造によって励起光の強度分布が変調され、チャンネルのエッジ部分近くの励起光強度が特に強く、計測されるラマン散乱光には、エッジ部分近くの散乱光が強く反映されることになる。また、励起光は側壁にも回り込んでいる。
図3(b)は、Siのラマン散乱光が散乱されている様子を波長ごとに示したもの。場所によって応力の大きさが異なるため、それに応じて波長の異なるラマン散乱光が散乱されている。
図3(c)は、解析結果から得られる各ラマン散乱光のスペクトルとそれらを合成したラマンスペクトル。この合成スペクトルが実際の測定で得られるラマンスペクトルに相当する。応力解析を調整して、実測したスペクトルとのずれがなくなれば、シミュレーションによる最終的な応力値が決まる。
図3 (a)FinFET構造の応力分布と今回開発したシステムによって計算した励起光の強度分布。(b)側壁から散乱されている各波長ごとに示したラマン散乱光の様子。(c)解析結果から得られる各散乱光のスペクトルと合成されたラマンスペクトル
なお研究グループでは今後、開発した測定評価技術を組み込んだラマン計測システムの製品化を図るなど、技術の社会への還元を図っていく予定とコメントしている。