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東大など、植物の生長速度と環境ストレス応答のバランス調整の仕組みを解明

東大など、植物の生長速度と環境ストレス応答のバランス調整の仕組みを解明 

 東京大学、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、理化学研究所(理研)の3者は9月11日、植物の生長速度と環境ストレス応答のバランス調整に不可欠な転写抑制因子のタンパク質「GRF7」を発見したと共同で発表した。

 成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 博士課程3年の金俊植氏(当時)、同・修士課程2年の中嶋潤(当時)、同・溝井順哉特任助教、同・城所聡助教、同・篠崎和子教授、JIRCAS 生物資源・利用領域の圓山恭之進主任研究員、同・中島一雄主任研究員、理研 植物科学研究センターの篠崎一雄センター長らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、8月31日付けで米国植物生物学者協会誌「The Plant Cell」オンライン版に掲載された。

 移動の自由な動物と異なり、根を下ろした場所から動かずに生育する植物は、変化し続ける自然環境に合わせて生長・生存を図っている。植物は、理想的な環境では光合成によって得られたエネルギーを使って、最大限に生長する。

 しかし、周辺環境が悪化してくると、環境ストレスに応答してストレスの種類に応じた耐性機構を発動させ、そのストレスに耐えることができるようになる。ただし、速い生長と強いストレス耐性は、両立することはできない。よって、周辺環境の変化に応じて、生長とストレス耐性の2つのモードを厳密に制御することが、植物の生存戦略にとって重要であると考えられる。

 これまでに、ストレス応答の過程で活性化し、耐性獲得に働くさまざまな遺伝子の機能が明らかになってきた形だ。一方、理想的な生育条件ではストレス応答が起きない仕組みについては、ほとんど不明のままだった。

 モデル植物シロイヌナズナの転写活性化因子「DREB2A」は、乾燥や高温といった環境ストレスに応答し、これらのストレスへの耐性に関わる多数の遺伝子を活性化することで、耐性獲得メカニズムで中心的な役割を果たしている。

 そこで、DREB2A遺伝子の働きを制御しているプロモータ領域のDNAを解析して、DREB2Aプロモータの「S(Suppression:抑制)領域」と名付けられた領域が、ストレスのない条件でDREB2Aの働きを抑制することが発見された。

 さらにS領域には、GRF7が結合して、DREB2Aの発現を抑制していることも判明。また、S領域上でGRF7が結合する7塩基対のDNA配列「TGTCAGG;GTE,GRF7-Targeting Element」も同定した。

 一方、GRF7が植物体の生育やストレス応答でどのような機能を果たしているのかの検討も実施。GRF7を作らない変異体の植物「grf7-1」の解析が行われた。するとgrf7-1変異体は、ストレスがない条件でもDREB2A遺伝子が活性化しているのがわかったのである。

 さらに、マイクロアレイを用いて、遺伝子発現の変化を網羅的な調査も行われた(シロイヌナズナ2万7000の遺伝子の内、約2万6000の遺伝子の発現量の変動を1度に調べることができる)。その結果、DREB2A以外にも多くのストレス耐性遺伝子が、ストレスがない条件でも働くようになっていることが明らかになったのである。

 また、このような遺伝子発現の変化に対応するように、grf7-1変異体は乾燥や高塩濃度のストレスに対する耐性が向上していた。その一方で、grf7-1変異体は、通常の条件で生育させた時に、野生型の植物に比べて植物体のサイズが小さくなってしまうことも確認されたのである(画像1)。

 以上の結果から、シロイヌナズナの生長とストレス応答に関して、画像2のようなモデルが考え出された。

 画像1。環境ストレス応答を抑えて生育を促進するタンパク質GRF7の役割

 画像2。シロイヌナズナの生長とストレス応答に関するモデル

 ストレスのない理想的な生育条件では、GRF7がストレス耐性遺伝子のプロモータ上にある「GTE配列」に結合し、働きを抑制。ストレス耐性遺伝子の発現が起きないことから、生長にエネルギーが振り分けられ、植物は順調に生育する。

 しかし環境ストレスにさらされると、GRF7の機能が失われ、代わりにストレス環境下で機能する転写活性化因子が、耐性遺伝子の働きを活性化。耐性遺伝子の働きにより、植物体のストレスに対する耐性が向上するが、その一方で、生長は抑制されてしまう。

 つまり、植物は生育に適した条件下で最大限に生長するために、転写因子GRF7によって、生育の妨げとなる環境ストレス応答を積極的に抑制するという仕組みを持っていると考えられるのである。

 そしてゲノム情報の解析から、作物を含む多くの植物が、GRF7と同じ起源を持ち、同様の機能を有すると考えられる遺伝子を備えていることが明らかになった次第だ。

 研究グループは、今回判明した、生長と環境ストレス応答のバランスを調整する仕組みに着目することで、植物工場のような理想的な栽培環境下で作物の生長を早めたり、生産量を増大させたりする技術の開発が期待できるという。

 逆に、GRF7に相当する機能を持つ遺伝子を働かなくすることで、作物のストレス耐性を高めることもできるようになると期待できる。なお、今回の発表の主要メンバーである東大大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻の篠崎和子教授らによって、そのストレスに関連する乾燥状態での生長を制御する仕組みを分子レベルで解明したことに関する発表も同時にされている。

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