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鉄道トリビア (113) 普通列車のボックスシートも●●がルーツだった
鉄道車両の座席はロングシートとクロスシートに分類できる。ロングシートは通勤電車に多い長椅子タイプ。クロスシートは長距離列車に多く、レールと交差する向きに配置されるタイプだ。一般的な普通列車のクロスシートは、向きも背もたれも固定され、箱のように見えることから「ボックスシート」とも呼ばれる。
旅気分が盛り上がるボックスシート
こちらはロングシート
ところで、筆者の知人は、当連載の前回の記事に載せた固定式クロスシートの写真を見て、「このタイプの座席が存在する意味がわからない」と言った。特急の2人掛け座席は快適だが、普通列車のボックスシートはクッションも薄くて身体が痛いし、見知らぬ人と至近距離で向き合うのも気まずいそうだ。
筆者にとって、旅に出るならやっぱりクロスシート。窓の景色が見やすいし、気分も盛り上がる。進行方向に対して横向きのロングシートより、進行方向に向かって座ったほうが居心地も良い。そもそも、ボックスシートは昔からあって当たり前のものだった。なぜ存在するかと疑問に思ったことはない。
でも、あらためて指摘されると、鉄道ファンの筆者でも混雑した車内のボックスシートはつらい。いままでボックスシートの存在理由など考えたこともなかったが、今回はボックスシートについて調べてみることにした。
イギリスの馬車が鉄道のお手本にまず、鉄道車両のルーツをたどった。
明治時代の鉄道客車。座席区画ごとに扉がある
鉄道博物館には、日本の鉄道創業当時の客車が実物大模型として展示されている。座席は枕木方向、つまりクロスシートだ。座席の幅は室内の幅と同じ。現在のような中央の通路がなく、座席の各列ごとに扉が付いていた。背もたれ部分は木の棒が渡してあり、乗客は背中合わせに座る。扉を開けると向かい合わせ。言うなれば、幅の広い固定式クロスシートである。
客室配置の略図。上が初期の客車。下が大型化した客車で、前後にオープンデッキがある
もっと歴史を遡ってみた。日本の鉄道はイギリスの鉄道を手本にしている。鉄道発祥のイギリスでは、鉄道のお手本は馬車だという。レールの幅も馬車の車輪に由来するし、客車や貨車の作り方も馬車に準じた。馬車の客室は小さな箱型で、扉は側面に1つ。座席は扉を挟んで向かい合わせだった。もちろん進行方向に向いた席が上席だ。この形を鉄道の客車も流用したようだ。
その後、客車のつくりは車体の大型化によって変化した。扉は客室の前後に1つずつ取り付けられ、車両の端にオープンデッキを設けて、そこから扉を開けて客室に入るようになった。扉の数が多いほど車両の製造コストも増えるし、駅で開閉する際、駅員や車掌の手間も増えるからだ。扉が減れば、乗客の移動のために通路が必要になってくる。そこで座席を左右に分割した。こうして、ほぼ現在のボックスシートができあがったわけだ。
当時、ロングシートにならなかった理由は3つ。かつて客車は着席するのが当たり前で、立ったまま乗るという考えがなかったから。3等車は座席を増やす必要もあり、垂直な背もたれを採用すれば座席を増やせた。もうひとつは、移動するとき、進行方向に向かって座る状態が最も安定しているからだ。
鉄道だけに残ったボックスシートそうは言っても、ボックスシートの場合、半分の人は後ろ向きに座ることになってしまう。どうして最初から全員が前向きに座る形にしなかったのだろう。
馬車は2頭引きの大型車に進化すると、すべての席が前向きになった。自動車はこれをお手本にした。バスも前向きが基本だ。ところが鉄道の客車は大型化してもボックスシートのまま。半分の座席が後ろ向きになっている。
答えは簡単だ。馬車やクルマは車体ごと向きを変えられるけれど、鉄道車両はそうはいかない。終点に着くと反対向きに動き出すから、すべての向きを一方にそろえると、逆向きに走りだした時に全員が不快になってしまう。半分ずつ逆向きにすれば、不愉快な客も半分に減らせるというわけだ。もちろん、ボックスシートのほうが座席を増やせるという理由も大きかっただろう。半分ずつ逆向きという考え方は、近年まで特急の座席でも採用されていた。
最近はローカル線の普通列車でも、2人掛けシートが増えている。背もたれをスライドさせると向きを変えられる
もっとも、これらは座席の向きを転換する仕組みが開発されて以降、解消されつつある。座席ごとくるっと回転させたり、背もたれだけをバタンと動かしたりすることで、すべての座席が前向きになる。これで固定式クロスシートである必要はなくなった。ただし、たくさん座席を用意できるというメリットはあるので、普通列車の一部にはまだボックスシートが残されている。
馬車からの伝統、あるいは座席数を増やしたいという思惑から生まれたボックスシート。しかし最近は、大都市を中心に姿を消す傾向にあるようだ。
東京近郊では、通勤時間帯の混雑時にボックスシートは不評で、ロングシートの車両が増えている。中央線では、おもに東京~高尾間に限定されていたロングシートの電車が大月まで進出している。常磐線や東北本線なども同様だ。横須賀線や東海道線も、国鉄時代はボックスシートのほうが多かったが、最近はロングシートの比率が高い。
京浜急行はクロスシートの600形を登場させたものの、結局は混雑する時間帯に不評となってしまい、ロングシートへの改造が進められた。
逆に、京浜東北線でロングシートだった209系電車が、成田線や内房線などへ転出する際、新たにクロスシートを設置された例もある。混雑度が低い路線では座席を増やそうという考え方があるようだ。
一方、関西のJR線の普通列車は背もたれをパタンと動かすタイプのクロスシートが投入されているようだ。これは並行する私鉄とのサービス競争に対応するためや、東京ほど混雑率が高くないという事情によるものだという。
マイコミジャーナルでは、「鉄道トリビア」でおなじみ杉山淳一氏の執筆による「いまさら聞けない"鉄道ニッチ用語"」第2回を近日掲載予定。次回は「撮り鉄」の人なら知っている撮影用語を特集します。お楽しみに!