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カーエレクトロニクスの進化と未来 (1) エレクトロニクス化をひたすらつっ走る自動車
エレクトロニクス産業は今、自動車の電子化、いわゆるカーエレクトロニクスに成長性を信じて熱い視線を送っている。今後数年間で年率平均8~10%で成長していく市場だと認識しているからだ。ガソリンエンジンの高級車だと70~80個のマイクロコントローラ、いわゆるマイコンが使われている。この数は将来もっと増えていくだろうと期待されている。内燃エンジンから電気自動車への移行が将来起こり、エレクトロニクスが自動車を動かすことになるが、これまで続いてきた内燃エンジンの自動車でさえ、エレクトロニクスが機械システムを徐々に駆逐しており、カーエレクトロニクスの成長性は否が応でも期待が膨らむ。
かつて手動式で行っていた操作、例えばウィンドウを開閉するときは、レバーを回していたが、最近はパワーウィンドウが常識になり、低速時における重いハンドル操作を軽くするためのパワーステアリングも普及している。こういった所にエレクトロニクスが入り込んでいる。目に見えないところ、例えばエンジン制御におけるマイコンは、最適なタイミングで点火するといった応用に使われてきた。燃費改善やNOx排出抑制、排ガスのクリーン化などの効果を生んだ。衝突時の損傷を和らげるエアバッグにもマイコンが使われている。
また急ブレーキをかけた時には前につんのめりそうになるが、サスペンションをマイコン制御してクルマの前方を上げ、後方を下げることで安定な姿勢を保つよう制御している。アンチロックブレーキ(ABS)も常識になってきている。これは水たまりや雨の日など急ブレーキをかけても車輪がロックしてハンドルを取られることがあるが、それを防ぐために自動的にブレーキをかけたり緩めたりすることでスリップを防ぐシステムであり、ここにも当然ながらマイコンが使われている。もちろん、カーラジオやカーステレオ、カーナビゲーションなどのエンタテインメント系のシステムでは32ビットマイコンやマルチコアなどの最先端プロセッサが搭載されている例も増えてきている。
最新式のクルマにはバックモニターや、フロントライトの自動追尾、あるいは衝突防止のレーザーレーダー、縦列駐車をしやすくするためのまるで上から自動車を見るような操作を行うアラウンドビューモニター機能なども搭載されている。これらにはすべてマイコンが搭載されており、そのマイコンで機能を制御している。
こういった自動車におけるエレクトロニクス化は今後もさらに浸透していくと見られている。なぜか。電子制御だと機能拡張できる上、信頼性も高く、性能・機能も高められるためである。ただ、これまでの機能は、自動車というマシンすなわち機械で行っていた制御を電子で制御する方式に換えてきたものが多い。上に述べたパワーウィンドウやパワーステアリングなどはその典型だ。
しかし、機械制御では全くできない機能も見えてきた。エアバッグやABSなどをはじめ、カーナビやバックモニター、衝突防止のレーザーレーダーなどは機械ではできない機能をエレクトロニクスが果たしている。自動車は安全・快適を追及しているが、エレクトロニクス化がそれらを実現してくれることを自動車エンジニアは知ってしまった。
自動車のエレクトロニクス化の例(エレクトロニクスが機械システムに取って代わり始めている)
エレクトロニクスを自動車に採り入れる設計は、ハードウェアで設計するかソフトウェアで設計するか、何を半導体チップに集積するか、という基本アーキテクチャ設計から始まる。自動車のモデルチェンジがマイナーチェンジだと1年おき、フルモデルチェンジでも4~5年周期で起きている現状では、古い設計データのうち使えるものは使いまわしたい。すべての機能をゼロから設計するのでは開発に時間がかかりすぎるためである。となると、ハードウェアによる設計よりもソフトウェアによる設計の比重が高くなる。ハードウェアでは機能ごとに回路を組み直さなければならないからだ。ソフトウェアなら、プログラムを書き換えるだけで機能を換えることができる。ソフトウェアで性能、機能、品質などを高められる半導体チップはよく知られたマイコンである。だからマイコンの数がうなぎのぼりに増えている。
マイコンのアーキテクチャを変えなければソフトウェアの下位互換性を保つことができる。古いソフトに新しいソフトを組み込んだり、共存して使ったりすることができる。マイコンの基本アーキテクチャを共通にしておくと、データ幅を8ビットから16ビット、さらに32ビットへと拡張していっても互換性は保たれる。
最近ではフラッシュメモリを内蔵したマイコンが登場しているが、これも自動車向けにはうってつけの半導体チップだ。フラッシュマイコンは工場から出荷する前や後にプログラムを変えることができるが、自動車に搭載してからもプログラムを変えることができる。ある半導体メーカーの技術者が自分のクルマを運転しているときに黒い煙が出てきたため修理工場に持ち込んだところ、自動車の修理工はECU(電子制御ユニット)を取り外してから、フラッシュマイコンにプログラムし直していたという。点火のタイミングが経時変化してしまったため、最適条件をプログラムし直したわけである。プログラム終了後ECUを元に戻して再運転すると、もう黒い煙は出なくなったという。もしハードウェアで点火のタイミング制御を行っていたら、ECU全体を取り換えなければならず、修理に何日も待たなければならない。フラッシュマイコンだとプログラムするだけだから、その場で修理が可能になり、すぐに復旧できる。
自動車用のソフトウェアのプログラム行数はうなぎのぼりに増加し、トヨタ自動車によると、1978年ごろは2,000行程度だったが、2001年には200万行にも膨れ上がり、2006年では1,000万行にも増えたという。
次回以降では、自動車エレクトロニクスの基本を、センサ、アナログ信号処理、デジタル信号処理、アクチュエータ駆動、機械への伝達などのいわゆるシグナルチェーンを紹介し、どのような機能をどのようにして実現するか、について解説すると同時に、カーエレクトロニクス技術の新しいニュースが出るとその解説も行うことにする。