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両生類の発生は頭からを発見、定説覆す
根強い常識を変えるのは重要なことほど厄介である。その典型のような研究が出た。カエルやイモリなどの両生類は、卵から親になる発生が、頭から形成され始めて尾に至ることを、JT生命誌研究館(大阪府高槻市)の橋本主税(はしもと ちから)主任研究員らが突き止めた。その際の細胞集団の運動様式も解明した。体軸の形成は尾から頭へという1世紀続いた強固な定説を覆す発見で、ヒトを含む脊椎動物の初期発生や進化の研究に新しい視点を提示した。3月10日付の日本発生生物学会誌(英文)のオンライン版で発表した。
図1. 両生類の初期胚(提供:JT生命誌研究館)
卵を操作しやすい両生類の発生は古典生物学の時代から研究され、よく知られている。1世紀前に確立したモデルでは、胚表面に存在する細胞集団のオーガナイザー(形成体)がくぼんで内部に入り込み、さかのぼりながら接している組織を神経へと誘導する。このさかのぼりの起点が尾部、終点が頭部となるため、尾から頭へ形成されると考えられてきた。
図2. 両生類の原腸形成運動を説明する2つのモデル。上段が従来のモデル、下段がアフリカツメガエルで示されたモデル。アフリカツメガエルでは、予定神経外胚葉(青)のうち頭部になる部分とオーガナイザー(赤)の前方部がごく早い段階で接触して、互いにずれることなく、その場に存在し続け、体軸は尾部方向へ伸ばされる。(提供:JT生命誌研究館)
図3. 両生類の胚のオーガナイザー(赤)と将来神経細胞になる予定神経外胚葉(青)の相対運動。(提供:JT生命誌研究館)
橋本主税さんらは2002年、世界で最も研究されているアフリカツメガエルで、従来のモデルが当てはまらず、逆に頭から尾へと順に誘導されることを実証した。しかし、アフリカツメガエルの特殊な現象とみられたりして、この新しいモデルは広く受け入れられなかった。このため、研究グループは十数種類の両生類で、胚の各部を染色したりして、縦の体軸形成過程を詳しく観察し、頭から形成されることを確かめた。
また、オーガナイザーの動きを丹念に追跡して、これまで見えていなかった細胞集団の運動、沈み込みとそれに続く締め上げを発見した。この2種類の運動によってオーガナイザー前部と予定神経外胚葉が接触すると、互いにずれることなく、接触し続けて、頭をまず形成して、そこから下に伸びて最後に尾ができることを明らかにした。研究グループは「この仕組みが、両生類にとどまらず、脊椎動物の初期発生も共通している」とみて、脊椎動物全体を統一的に説明できるモデルの構築にも意欲を見せている。
橋本主税さんは「尾から頭に形成されるということが信じられたのは、1世紀前から生物の教科書に書かれ、根拠が不十分なまま、みんなが思い込み、それ以上考えなかったためだろう。先入観が強くて、否定する研究者は今も多く、13年間、無視され続けて苦労した。しかし、実験データとともに動画を示すと、信用してくれる研究者が大半だ。神経の軸が頭から形成されるのは理にかなっている。その原動力になる細胞の運動様式もわかったので、次第に受け入れられていくだろう。教科書も早く変えないといけない」と話している。