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若い恒星系の塵のリング内にできたての惑星が存在?
国立天文台とSEEDS Project(Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope:すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト)は1月11日、すばる望遠鏡の新コロナグラフ撮像装置「HiCIAO(ハイチャオ)」を用いて精密な測定をした結果、「HR 4796 A」という若い恒星の周囲にある塵のリングが中心星までの距離が左右でずれていることを確認し、未発見の惑星が塵に重力的影響を与えた結果があると発表した(画像1)。成果は50名の研究者による共同執筆された論文として、米「The Astrophysical Journal Letters」2011年12月10日号に掲載された。
画像1。HR 4796 Aの周囲にある残骸リングの近赤外線画像(波長1.6μm)。中心星からの光がリング中の塵の一粒一粒に当たったものが反射されたものが合さって見えている。リングは、恒星から遠く離れた(冥王星の軌道の約2倍)所を周回する塵の集まりからなります。リングの内側の端がこれまでになく明瞭に撮影されたので、リングの中心と中心星の位置がずれていることが確認された。このような塵の軌道がずれている原因は、リング内側のギャップ中にあると考えられる惑星の重力の影響だ。さらに、リングの外側の輪郭はぼやけており、塵がリングから外側に噴き出している様子がとらえられている。これは塵が中心星からの光の圧力を受けるためだ((C)国立天文台/SEEDS Project)
今回観測されたリングは「残骸円盤」と呼ばれる種類の星周構造で、程度の差はあれ、多くの恒星に見られることが知られている。この残骸円盤は、微惑星と呼ばれる惑星形成の「名残」が衝突し、小さな塵が絶え間なくばらまかれることで形成されると考えられているものだ。実は、太陽系にも量は少ないが同様の塵の雲が円盤状に分布している。
HR 4796 Aにある塵の円盤は、内側が晴れたリング状をしており、その半径は冥王星の軌道の約2倍もあるという巨大なもの。今回、HiCIAOによりリングの画像がシャープかつ高いコントラストで得られたことで、中心の恒星からリングの内側の端までの距離が左右で違うことが判明した。
HR 4796 Aのリングの中心位置がずれている可能性はハッブル宇宙望遠鏡の観測からも示唆されていたが、すばる望遠鏡はそれを確認しただけでなく、以前の観測よりも大きなズレを発見することに成功したのである。
このような非対称なリングができる最も有力な可能性は、画像では見えていない惑星がリングの内側に存在し、重力的な影響を及ぼしているというもの。そのような惑星の重力の影響が、中心のずれた塵リングを作ることは、コンピュータを用いたシミュレーションでも確認されている。
また、ハッブル宇宙望遠鏡で残骸円盤と惑星の共存が実際に報告されているフォーマルハウト(南天にあるみなみのうお座の1等星)のような例もある。HR 4796 Aではまだ惑星の存在は確認されていないので、おそらく非常に暗い小さな惑星があるものと推測されている。
さらに、リングの両端を良く見ると、非常に淡くもやもやとした光が見えることが判明。これはリング状に分布した塵が中心星からの光に吹き飛ばされて、やせ細って行く様子をとらえたもので、すばる望遠鏡での観測は、そのシャープな画質により見えない惑星のきざしをとらえただけでなく、生成されては飛ばされてゆく塵の「生き様」もとらえたというわけである。
今回すばる望遠鏡で得られた画像は、ハッブル宇宙望遠鏡と比べても遜色なく、リングの位置のズレを精密に測ることができたものだという。それを可能にしているのがすばるに搭載された優れた補償光学系「AO188」で、これは地球大気の揺らぎをリアルタイムで補正し、望遠鏡口径で決まる限界のシャープさを提供するという装置となっている。
一方、HiCIAOでは、明るい中心星の影響を抑制することで高いコントラストを持つ画像を得ることが可能である。つまり、AO188とHiCIAOの組み合わせによって、明るい恒星のまわりにある淡いリングからの光をシャープにとらえ、HR 4796 Aにおける惑星形成の名残である残骸円盤と存在するであろう惑星について、本質的な理解に迫ることができるというわけだ。